
せっかく時間とコストをかけて採用活動を進め、ようやく入社日を迎えた――。
ところが前日になって「やっぱり辞退させてください」と連絡が入ったり、入社したと思ったら数日で「もう辞めます」と退職の意思が示されたり。人事・労務担当なら、一度は胃が痛くなるような経験があるのではないでしょうか。
こうした“入社直前の辞退”や“入社直後の早期退職”は、企業にとって採用コストの損失にとどまらず、社会保険や雇用保険の手続き期限、内定取消の法的リスク、離職理由をめぐるトラブルといった実務上の課題を一気に噴出させます。
本記事では、厚生労働省・日本年金機構・協会けんぽといった公的機関の情報をもとに、法務と人事の両面から、リスクを最小化するための対応の仕方を整理します。
まず押さえておきたいのが、「内定」が持つ法的意味です。
一般的に「内々定」は単なる採用予定の意思表示で、まだ労働契約は成立していません。したがって辞退も比較的自由です。
しかし「採用内定」となると話が変わります。判例上、これは始期付解約権留保付労働契約とされ、簡単に取り消すことはできません。もし企業側が取り消す場合、『解雇と同等の厳しい合理性要件(労働契約法16条)』を求められるのです。
一方で、候補者側からの「辞退」は、労働契約を破棄する行為ですが、よほど信義則に反する事情がない限り、損害賠償が認められることは稀です。
つまり、企業による取消はリスク大、候補者の辞退はリスク小という非対称性が存在します。
景気変動や人員計画の見直しにより、どうしても「やはり採用できない」となる場合もあります。しかし、その内定取消は法律上、解雇に準ずる扱いを受けます。
厚労省は、企業が安易に内定取消を行えば、ハローワークを通じて行政指導や企業名の公表を行う可能性があるとしています。
採用ブランディングが重視される現代において、このリスクは極めて大きいと言えるでしょう。
一方で候補者から「やっぱり辞退します」と言われるケース。これは法律的にはそこまで大きなリスクはありません。
ただし、企業にとっては採用コストが無駄になるだけでなく、すでに進めてしまった社会保険や雇用保険の事務処理に影響が出る場合があります。
実務フローとしては以下の通りです。
この「先行提出があったかどうか」の確認が、担当者にとって最初の分岐点となります。
「初日で辞めたいと言われた」というケースは珍しくありません。実務担当者にとっては、ここからが本番です。
社会保険(健康保険・厚生年金)
雇用保険
ケースA:入社前夜に内定辞退
ケースB:入社初日で退職
「せっかく採用したのにすぐ退職された」――この瞬間、人事担当者の頭には“事務手続きの山”と“法的リスク”がよぎります。
しかし冷静に整理すれば、対応は決して複雑ではありません。
誠実かつ迅速な対応を徹底すれば、企業イメージを守るだけでなく、将来的な再応募(いわゆる“ブーメラン採用”)につながる可能性もあります。
社会保険労務士法人きんかでは、会社の様々な労務トラブルのご相談から助成金の代理申請、給与計算代行など、幅広いサポートを行っております。
また現在ご利用中の就業規則が最新の法令に則しているかどうかを診断できるツールや、活用可能な助成金をチェックできるツールもご提供しておりますので、お時間ございましたら是非使用してみてください。なお、各種診断ツールにつきましては弊社より後日ご連絡をさせていただく場合があります。予めご了承ください。
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