
業務中や通勤中の事故・疾病で従業員が働けなくなるリスクは、どの企業においても無視できません。事業主・人事労務担当者として、被災社員をできるだけ支える体制を整えておくことは、企業の社会的責任であると同時に、信頼を維持する必須の対応です。
本記事では、労災保険の制度の中でも特に「休業補償給付」に焦点を当て、制度の要件、給付額の計算、手続き、留意点を整理します。また、弁護士解説を参照しながら、被災者や企業として「もらえない/争いになるケース」「対応のポイント」も押さえておきます。
労災保険制度は、業務上の事故・疾病または通勤途上の事故・疾病により、労働者が被災した際に、療養費・休業補償・障害補償・遺族補償などを行う制度です。
労災が発生した際、被災者は労働基準監督署を介して労災保険給付を請求します。
その中で、休業補償給付は、被災して業務に就けず、給与を得られない期間に対して、一定の補償を行う給付です。
休業補償給付が支給されるには、以下の要件を満たしていることが必要です
| 条件 | 説明 |
| 業務上・通勤災害であること | 原因が労働災害であることが前提。通勤災害も対象。 |
| 休業せざるを得ない状態であること | 療養・治療のために働けないことが必要。 |
| 賃金支払いを受けていないこと | 通常、給与を受け取っていない状態であること。 |
| 休業が4日以上であること | 休業初日から3日間(待機期間)は原則として給付されない。 |
給付は、療養のために休業した日数分を対象とします。ただし、支給期間に上限が定められている制度(例えば傷病補償年金に移行する場合など)が別途存在します。
実際にいくらもらえるかは、以下の手順で算定されます(弁護士解説を参考
給付基礎日額とは、事故発生日直前の3か月間に支払われた賃金総額を、期間の日数で割ったものです。
これは平均賃金相当額と見なされることが多いです
一般的な計算式は次の通りです:
さらに、休業特別支給金という名目で別途給付基礎日額の20% × 休業日数が支払われるケースがあります。
具体例
例えば、ある労働者が事故により10日間休業(初日~3日は待機期間)したとします。
休業給付対象日数 = 10日 − 3日の待機期間 = 7日
合計:56,000円 が支給される、という計算になります。
(※これはあくまで目安であり、実際には事案ごとに賃金内訳・手当等により変動する場合があります。)
給付を受けるためには、所定の請求手続きを適切に行う必要があります。
厚労省の「休業(補償)等給付・傷病(補償)年金の請求手続」パンフレットには請求書の記載方法等が掲載されています。
また、労災保険給付関係の主要様式一覧は、厚生労働省のサイトでダウンロード可能です。
休業補償給付は便利な制度ですが、すべての被災者が無条件に受けられるわけではありません。以下のようなケースで争いになることがあります。
| 争点 | 典型例 | 注意点・対応策 |
| 休業日数の認定 | 「実際には出勤可能だった」など会社側主張 | 出勤可能性の有無・就労意思を記録しておく |
| 平均賃金の算定 | 手当・残業代を含めるか否か | 賃金台帳・給与明細を明確にしておく |
| 待機期間中の補償責任 | 通勤災害では事業主責任なしを主張される | 法令・判例解釈を確認、初期対応で争点を把握 |
| 提出書類不備・遅延 | 請求を忘れた・提出ミスした | 労働基準監督署とのやり取り記録を保持 |
| 会社の安全配慮義務違反 | 被災原因に会社の過失があれば損害賠償請求になる可能性 | 事故状況の記録・証拠保全を早めに行う |
弁護士解説では、「休業補償給付だけでは賠償不十分なこともあるので、損害賠償請求を併用検討すべき」との指摘もあります。
被災事故に適切に対応できるかどうかは、事前準備と事後対応で変わります。
これらの対応を怠ると、給付が遅延・拒否されるだけでなく、労使トラブル・賠償請求・企業イメージの悪化につながるリスクがあります。
休業補償給付は、労災発生後の被災者の生活を守るうえで重要な制度です。しかし給付の可否・給付額・争点の発生しやすさなど、実務的には複雑な面も多くあります。
企業が取るべきスタンスは、事後対応に追われる立場に立たされないよう、事前準備と初動対応の体制を確立しておくことです。
被災者をケアしつつ、制度を正しく運用できる企業は、信頼と安心を社内外に示すことができるでしょう。
社会保険労務士法人きんかでは、会社の様々な労務トラブルのご相談から助成金の代理申請、給与計算代行など、幅広いサポートを行っております。
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